ブログ BLOG

2020年12月29日お役立ち情報

【解決事例】長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい【その1 韓国の戸籍集め編】

※本記事は、実際の事件の内容を一部変更したり、複数の事件を再構成しています。

 

はじめに

おはようございます、司法書士の木戸です。

今回お話するのは、私がこれまでに担当した相続案件の中でこれまでで一番解決までに時間を要し、そして、一番印象に残っているケースです。

その特徴としては、

・被相続人と相続人が外国籍(渉外相続)

・相続人の中に行方不明な者がいる(不在者財産管理人)

戸籍そのものが全くない(遺産分割調停)

 

 

まずは依頼者の話を聞きました

ご依頼を受けるにあたり、依頼者の方から事の経緯を確認したところ、次の内容を聴き取りできました。

15年前に依頼者の母親が、その翌年に父親が亡くなった

・両親の相続に関する法定相続人は、依頼者の姉妹とその兄の3名のみ

・両親の現預金は、相続開始後まもない時期に兄妹で3分の1ずつ分け合った

・実家の土地建物は両親の共有名義のままで、遺産分割協議も相続登記もしていない

・両親の葬儀法要が済んだ後、依頼者姉妹は実家を離れ、実家で暮らす兄とは音信不通となった

・最近、実家がある自治体から固定資産税滞納のお知らせが依頼者姉妹のところに来た

とは連絡が取れず、行方不明との噂を聞いた

・滞納金を支払うのは構わないが、住んでいない家のために今後も支払いが発生するのは困る

・両親、依頼者ら兄妹は、韓国籍

 

 

解決に向けた道筋を説明しました

私は、依頼者にとってのゴールは何か?を意識するようにしています。(特に中長期案件の場合)

今回の場合は「相続不動産を売却して、滞納金を清算する」です。

ポイントとなる事柄を聴き取ることができたので、設定したゴールから逆算し、今後進むべき道筋を組み立て、依頼者に次の流れで進めていきたい旨を説明し、ご了承をいただけました。

① まずは、韓国の戸籍謄本(相続関係がわかる証明書)を集める

② 管轄の家庭裁判所に、兄の不在者財産管理人選任の申立てをする

③ 家庭裁判所が兄の不在者財産管理人を選任する

④ 依頼者姉妹と不在者財産管理人の間で、両親名義の不動産について遺産分割協議をする

相続登記をして、不動産の名義を変更する

⑥ 相続不動産を売却して、滞納金を清算する

 

 

韓国の戸籍謄本を集め始めました、しかし

韓国の戸籍謄本が取れる場所

韓国の戸籍謄本は日本の役所では取れません。日本国内にある韓国の大使館や総領事館で取れます

大阪近郊の方は、駐大阪大韓民国総領事館で取るのがいいでしょう。

窓口での請求だけでなく、郵送での請求も可能です。

請求に必要なのは次のものです。

資料として提示した日本の戸籍謄本等の原本を返還してほしい場合は、日本の役所と違って、請求者側がコピーも用意する必要がありますので、注意してください。

証明書交付申請書(リンクからダウンロード可能)

・特別永住者証明書、在留カード等の身分証明書

・韓国名の印鑑

・帰化している場合は、帰化前の氏名が記載されている日本の戸籍謄本

・郵送の場合、切手を貼った返送用封筒

・郵送の場合、1通あたり110円の手数料(現金書留又は郵便小為替にて支払い)

 

本籍地(登録基準地)がわかる資料を用意しよう

上記の申請書には、登録基準地、日本でいう本籍地の記載が必要になります。

登録基準地は何を見ればわかるでしょうか。

在留カードや特別永住者証明書には載っていません。

今回の依頼者も自身と両親の登録基準地をご存知なかったので、私はある書類を取り寄せました。

それは、外国人登録原票の写しです。

平成24年7月9日から、外国人にも住民基本台帳法が適用され、住民票が作られるようになりました。

それ以前の外国人住民の記録が記載されているのが外国人登録原票で、いわば、戸籍と住民票の機能を兼ね備えたものです。

平成24年の外国人登録制度廃止に伴い、法務省が記録書類の管理をしていますので、今回、交付の請求も法務省に対して行いました。

詳しい手続きの方法は、法務省のWEBサイトを確認してください。

なお、交付請求は、委任を受けた代理人による手続きが認められていないので、書類は代理人にではなく請求者本人に送付されます。(書類の作成や発送の手配は私がしました。)

交付された外国人登録原票の写しの中に記載されている「国籍の属する国の住所または居所」が、本籍地(登録基準地)に該当します。

 

こんな証明書が必要です

この記事では通りが良いように何度も「戸籍謄本」と述べていますが、実は現在の韓国に戸籍制度はありません。

2008年1月1日から、家単位の戸籍制度から、個人単位の家族関係登録制度に変わりました。

よって、正確には2008年以降の身分事項(出生・死亡など)が記載された証明書は「家族関係証明書」と呼びます。

相続手続きに必要な証明書は、次の書類のものがあります。

 

◯ 除籍謄本

2008年1月1日以前の身分に関する事項(出生・婚姻など)が記載されています。

日本の戸籍をイメージしてください。

◯ 基本証明書

請求対象者の出生・死亡・改名等の項が記載されています。

◯ 家族関係証明書

請求対象者を基準として父・母・配偶者・子供の記載がされています。

兄弟姉妹を確認したい場合は、両親の家族関係証明書を取得します。

◯ 婚姻関係証明書

請求対象者の結婚、離婚に関する事項と配偶者の姓名等に関する事項が記載されています。

◯ 入養関係証明書

請求対象者の養父母と養子に関する事項が記載されています。

◯ 親養子入養関係証明書

請求対象者の親養父母と親養子に関する事項が記載されています。

親養子とは、いわゆる「特別養子」です。

◯ 注意点

これらの証明書は、本国の公用語であるハングルで表記されている(除籍謄本は一部漢字あり)ため、日本の登記所や裁判所に提出するときは、日本語の訳文も必要になります。

また、相続手続きに使用する家族関係証明書は、変更の履歴が記載された形式である「詳細証明書」で取得してください。

 

今回は、両親は戸籍制度時代にお亡くなりになっているので、

両親は、出生から死亡までの一連の「除籍謄本」

依頼者2名は、「基本証明書」と「家族関係証明書」

の書類が必要です。

本来は、兄の証明書も必要なのですが、日本と違い、兄の家族関係証明書は取得できないのです。

 

今は兄弟姉妹の証明書は取れない

今回、私は依頼者から委任状をいただき、依頼者の代理人として韓国の除籍謄本や家族関係証明書を取りに行きました。行方がわからない兄からは委任状をもらっていません。

以前は、今回のようなケースでも妹である依頼者からの委任状だけで、兄の証明書も取得できたのですが、2016年に韓国本国の裁判所で「家族関係登録に関する証明書を兄弟姉妹からの請求で取得できる法律は違憲」との決定が下されたのです。

よって、原則、兄本人の同意(委任状)が必要となります。

なお、本人の同意(委任状)がなくても取得可能なのは、配偶者と直系血族(親・祖父母・子供)です。

 

衝撃の事実が発覚

さて、韓国総領事館に証明書を取りにいったところ、次の事実が判明しました。

・依頼者ら兄妹に該当する戸籍(家族関係登録)自体が無い

・両親らの該当する戸籍はあるが、両親が結婚した記載も死亡した記載も無い(両親はそれぞれの親の戸籍に入ったまま)

外国人登録原票にはこれらの記載があるため、おそらく、日本の役所には「両親の結婚届」「子供の出産届」「両親の死亡届」は提出したが、何らかの事情により本国の韓国には提出していないということでしょう。

今回、私は依頼者姉妹から委任状をいただいて戸籍請求をしに来たわけですが、そもそも委任者の2人の戸籍の記載自体が無いわけなので、依頼者姉妹のものはもちろん、関係が証明できない両親の戸籍謄本も請求できません。

 

 

戸籍整理をしてみるものの

出生、結婚、死亡などの身分に関する事項が除籍簿(家族関係登録簿)に正しく記載されていない場合、駐日韓国総領事館を通して韓国政府に正しい内容を申告して、除籍簿(家族関係登録簿)の記載を正しい内容にしてもらうことができます。

これを、戸籍(家族登録関係簿)整理と言います。

この手続には、日本の役所に提出している戸籍届書の記載事項証明書(婚姻届・出生届・死亡届などの写し)が必要になります。

しかし、詳細は省きますが、手に入らないものが一部あったため、それがネックとなり、「戸籍整理もできない」という結果になりました。

 

 

逆転の秘策は

相続登記には登記原因証明情報(戸籍謄本)が必要

通常、相続登記には登記原因証明情報として戸籍謄本の提供が必要です。

戸籍謄本には相続登記の原因となる事実

・相続の開始(登記名義人が亡くなったこと、その日

・その法定相続人が誰か

という情報が記載されています。

その戸籍謄本が手に入らないということは、登記原因証明情報が揃わない=相続登記が受理されないということになります。

 

遺産分割調停を利用する

韓国の戸籍謄本を集めることが極めて難しそうだとわかったとき、私はある登記先例を思い出していました。

「成立した遺産分割調停に基づく相続登記の申請には、戸籍謄抄本等の添付は不要。」

登記研究177号、昭和37年5月31日民甲第1489号民事局長回答

 

なぜ戸籍謄本の提出が不要かと言うと、家庭裁判所が相続関係を審査した上で遺産分割調停が行われるため、調停調書だけで相続関係が明らかにされていることができるためです。

つまり、「裁判所がちゃんと相続関係を審査してくれてるから、うち(登記所)には戸籍出さなくてもいいよ」ということです。

 

依頼者に解決への道筋を軌道修正することを説明しました

そこで、私は依頼者に、上記の理由により、解決への道筋を次のように修正することを提案し、遺産分割協議による相続登記ではなく、遺産分割調停による相続登記を目指すことの了承をいただきました。

① 戸籍関係の届書等の戸籍謄本に替わる書類を可能な限り集める

② 管轄の家庭裁判所に、兄の不在者財産管理人選任の申立てをする

③ 家庭裁判所が不在者財産管理人を選任する

④ 不在者財産管理人を相手として、管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる

⑤ 遺産分割調停を成立させる

⑥ 相続登記をして、不動産の名義を変更する

⑦ 相続不動産を売却して、滞納金を清算する

 

 

あとがきと補足

「長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい【その1 韓国の戸籍集め編】」いかがでしたか?

最初にご相談を受けたときから、(これは簡単な依頼ではないな)と感じていたのですが、スタートから躓いてしまいました。

しかし、専門家でも手の施しようがないという事態はそうそうありません。

今回のケースも、時間は掛かりましたが、最終的にはゴールまで辿り着けました。

 

韓国籍の方の相続の場合は、まず、外国人登録原票を取得されるのが良いと思います。

法務省に請求して、自宅に書類が届くまでに概ね1か月程度掛かりますので、最初に取り掛かるのがいいでしょう。

あと、これは個人的な感想ですが、日本の役所の証明書窓口の方に比べると、領事館の担当者はあまり親切ではないという印象を持っています。

慣れていない方は面食らうかもしませんが、そういうものだと割り切って根気よく手続きを進めましょう。

 

それでは、ここまで記事をお読みいただきありがとうございました。

その2に続く・・・

 

 

関連記事

【解決事例】長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい その2-不在者財産管理人編

 

 

執筆者  司法書士・行政書士 木戸 英治