2020年03月09日相続放棄
【解決事例】借金・債務がある親の遺産を相続放棄する方法
今回は、私が成年後見人を務めていた方がお亡くなりになったケースです。
依頼のきっかけ
法定代理人である成年後見人は、本人である被後見人がお亡くなりになると代理権が消滅=後見人としての通常業務が終了し、後は、就任期間中の収支の計算を行い、被後見人の相続人に対して、財産を引き渡します。
財産の引き渡しは、必ずしも相続人全員に対してする必要はないのですが、
このケースでは、相続人の数は少なく、どなたもお住まいは遠方ではなかったため、
全員にご来所いただき、引き渡しを行いました。
そして、財産の状況が債務超過であったため、その場で相続放棄の手続きについてご依頼いただき、お受けしました。
相続放棄とは
相続業務をしていると、相続人の方から「私は相続放棄しました」という言葉をよく聞きます。
しかし、ほとんどの場合、それは本当の意味での『相続放棄』ではありません。
本当の『相続放棄』とは、家庭裁判所に相続放棄したい旨を申し出て、それが受理される必要があります。
皆さんがよく仰られているのは、単に遺産の権利を放棄したに過ぎません。
相続放棄をするための手続上の要件は、
・亡くなった被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判に対して、
・相続の開始があったこと(被相続人の死亡の事実と、自分がその相続人となったこと)を知ったときから3か月以内に
しなければなりません(民法第915条)
3か月を過ぎていても認められる場合がありますが、法律上の原則は『3か月以内』です。
その他の要件については、下記リンク先の裁判所のHPを参照してください。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
裁判所への申述書類の準備・提出
司法書士は、登記だけではなく、裁判所に提出する書類の作成も業務とすることができます。
家庭裁判所への相続放棄の申述をするため、私がしたことは次のことです。
・相続放棄をしたい申述人と被相続人の相続関係がわかる戸籍謄本の取得
・被相続人の最後の住所地がわかる住民票の除票の取得
・申述書の作成
・申述受付後の裁判所からの照会に備えた助言
あと、今回のケースは成年後見人からの継続依頼のため、財産の状況は把握済みでしたが、
財産の状況に関する調査をすることもあります。
必要な書類が揃ったら、依頼者である申述人の方から署名と押印をいただき、
私が依頼者の方に代わって、書類を管轄裁判所に提出します。
申述書類提出後の手続きの流れ
書類提出から裁判所での手続き終了までの次のとおりです。
① 裁判所が提出書類を受付
② 裁判所が提出書類の形式を審査
③ 裁判所が照会書(手続きの意思や内容を確認する書類)を申述人に送付
④ 申述人が照会書に必要事項を記入押印し返送
⑤ 裁判所が返送された照会書を審査
⑥ 裁判所が発送申述を受理、申述受理通知書を申述人に送付
⑦ 申述人が申述受理通知書を受領
管轄の裁判所やその事案の内容にもよりますが、
②審査で問題がなければ、照会書の③~⑤が無く、⑥の受理まで進む場合もあります。
今回のケースでは、相続開始を知ってから3か月以内の申述であり、
申述人が相続財産を処分するような行為もしていなかったため、
裁判所としても照会書無しでも受理して差し支えないと判断したのでしょう、
①から⑦までに10日掛からないスピード決着でした。
受理後の処理①
裁判所での手続きが終わっても、まだやるべきことがあります。
債権者へ相続放棄したことの通知と、
次の順位の人に相続人になったことの連絡です。
債務から解放されたと思っていたのに、忘れたころに消費者金融やカード会社から「◯◯さんの返済残ってるんで、子供のあなたが代わりに払ってください」て言われたら嫌じゃないですか?
嫌なことは一度に片付けてしまいましょう。
このケースでは、ご依頼を受けた後すぐ、裁判所に相続放棄の書類を出す前の段階から、
債権者に対して、相続人はまもなく相続放棄をする予定である旨をあらかじめ伝え、相続人への連絡は控えていただくようにしました。
法的な拘束力は無いですが、少しでも依頼者の方の気持ちの負担を減らすための一手です。
申述受理後に裁判所から送付されてくる受理通知書は、その時に一通しか発行されない書類です。
そのため、債権者に相続放棄の手続きが完了した旨の連絡をする際は、
申述受理証明書という書類を取得し、それも合わせて送付しています。
これは、一通あたり手数料150円(収入印紙で納付)を裁判所に支払えば、何通でも発行してもらえます。
受理通知書が届いた旨の連絡を依頼者からいただいた後、
あらかじめ依頼者から預かった書類を使って、私が受理証明書を取得しました。
受理後の処理②
続いて、次順位の相続人への連絡です。
民法では、相続人となる者の順位が定められています。
第1順位 子【887条】
第2順位 直系尊属(親)【889条】
第3順位 兄弟姉妹【889条】
常に相続人 配偶者【890条】
前の順位の相続人全員が、放棄して相続人がいなくなったら、次の順位に相続権が移ります。
このケースでは、被相続人の子供が全員相続放棄し、すでに親も祖父母も亡くなっていたため、
被相続人の兄弟姉妹に相続権が移りました。
民法 第940条第一項
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
相続放棄をしても、それで一切の責任を負わなくなるのではなく、財産の管理を他の相続人に引き継ぐまでは、その管理を続けなくてはいけません。
このケースでは、不動産は無く、預貯金と金銭債務だけが相続財産だったので、管理自体は大変ではありませんが、いつまでも管理をしないといけないのは負担です。
よって、兄弟姉妹の方に相続人となったことと、どんな相続財産があるかを連絡しなくてはいけません。
その連絡についても、私が代行しました。
完了の報告
以上、ご依頼の内容が全て済みましたので、依頼者の方へ手続きが全て完了した旨を報告し、終了となります。
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執筆者
司法書士・行政書士 木戸 英治