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2020年03月16日相続登記

【解決事例】相続人に認知症の人がいる場合の相続手続きに必要なこと

今回は、相続人の中に高齢の認知症の方がいたケースです。

 

依頼のきっかけ

元々は、不動産を所有していた方が亡くなり、その相続人のお知り合いの方からのご紹介で、相続登記のご相談を受けたことが事の始まりでした。

そして、そのお話の中で、被相続人の配偶者の方が認知症が進行した状態であることがわかりました。

 

 

遺産分割協議と意思能力

遺産の分け方を話し合う遺産分割協議は法律行為にあたり、意思能力が必要になります。

症状の程度にもよりますが、認知症がある程度進行した方ですと、その意思能力に問題がある状態と判断せざるを得ません。

たとえ、遺産分割協議書にその方の署名と実印の押印がされていても、意思能力に欠けた状態で協議されたものであれば、その法律行為は無効、遺産分割協議も無効となります。

その遺産分割協議に基づいた相続登記がされ、その後、相続不動産が売却されたとしたら、

元の遺産分割協議自体が無効なので、その後の売却による所有権移転も無効となります。

登記所は提出された書面のみを審査するため、実体は無効な遺産分割協議であっても、必要な書類さえ整っていれば相続登記をすること自体は可能です。

しかし、法的に非常に危うい状態となるため、全くお勧めはできません。

なお、意思能力とは、

『自分の法律行為によって、どんな結果が起こるかを理解し、その行為をするかを判断できる能力』

と言われています。

このままでは相続税の申告期限までに遺産分割協議ができないため、

その相続人の方に成年後見人をつけた方がいいことを説明し、ご家族の方のご了解をいただけたので、

まずは、成年後見開始の申立てをすることとなりました。

 

 

後見開始の申立て

司法書士は、登記だけではなく、裁判所に提出する書類の作成も業務とすることができます

私が担当したことは、主に証明書の取得と書類の作成ですが、その書類は大きく次のように分類できます。

・本人の状態や経歴に関する書類

・本人の財産に関する書類

・本人の収入と支出に関する書類

・相続財産に関する書類

・親族に関する書類

・後見人候補者に関する書類

 

個別の書類の内容については、下記リンクの裁判所のHPを参照してください。

https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_01/index.html

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_01/index.html

 

このケースでは、ご家族の方が後見人となることを希望されていたので、

そのご家族の方を後見人候補者として申立てをしたのですが、一つ注意点がありました。

それは、本人の預貯金の額が多かったことです。

 

 

親族が後見人になる方法

成年後見制度は2000年から始まりました。

当初、成年後見人等に選任される割合は親族が一番多かったのですが、

親族後見人による本人の財産の横領の続発が社会問題となったため、

弁護士・司法書士・社会福祉士といった専門職が選任されることが多くなりました。

しかし、専門職が選任される割合が高まると、

『仕事量の割に専門職後見人の報酬が高い』『本人の意思を尊重してくれない』

という批判の声が親族から出てくるようになりました。

 

そこで今のトレンドとしては、

本人の流動資産(現預金・有価証券)の額が一定額以上で、

就任を希望する親族の適格性やその他の事情に問題が無ければ、

・専門職を監督人に就け、親族後見人の職務を監督させる

・最初は専門職を後見人に就け、後見制度支援信託を設定した後、親族と交代する

このどちらかの対策を施したうえで、親族も後見人に選任していく傾向にあるようです。

 

なお、『一定額』とは、大阪家庭裁判所では1200万円とされています。

また、後見制度支援信託とは、

・信託銀行等に支援信託口座を開設して

・親族後見人の手元には当面必要なお金(100万~300万円程度)のみを残し

・他のまとまったお金は支援信託口座に預けて

・裁判所の許可なく、その口座からお金を引き出せないように

する制度です。

 

そして、今回はその一定額以上の財産があったため、上記の事情について私からご家族の方に説明をし、

後見制度支援信託を利用する形を希望されました。

 

 

書類提出後の手続きの流れ

書類提出から裁判所の後見人選任までの流れは次のとおりです。

① 申立人が、申立て前に裁判所に事前連絡をして、④の面談日を予約(今回は私が代行)

② 申立人が、裁判所に申立て書類を提出し(今回は私が代行)、裁判所がそれを受付

③ 裁判所が提出書類を審査

④ 調査官が申立人と面談(後見人候補者がいればその方も)

⑤ 裁判所が審査

⑥ 裁判所が後見開始と後見人選任を審判(決定)

⑦ 裁判所が本人、申立人、後見人に審判書を発送

⑧ 後見人が審判書を受領

⑨ ⑧から2週間を経過した日に審判が確定=後見人として正式に就任

 

書類の補正が無かったので、②の受付から⑦の審判までに掛かった期間は、概ね1か月程度です。

昔は、もっと処理に時間が掛かっていたようですが、ここ最近は早くなったようです。

 

④の面談は、場所は管轄の家庭裁判所内の一室で行われ、時間は平日日中のみとなります。

よって、昼間にお仕事のある方ですと、時間を作っていただく必要があります。

所要時間は、概ね30分から1時間程度です。

面談の内容は、後見制度に関する説明のビデオを観たり、調査官から対面で説明を受けたり、

提出書類や本人や後見人候補者に関する質問に回答したりします。

基本的に、私が申立書類作成に関与した場合は、面談に同席させていただくことにしており、

このケースでも申立人の方に同席させていただきます。

裁判所に関係者として出頭することなんて、一般の方にはそうないことでしょうから、

顔見知りの専門職である私が隣に居た方が不安は少ないかと思いますので、そうさせていただいています。

 

 

遺産分割協議と相続登記

今回のケースでは、弁護士の方が専門職成年後見人として裁判所に選任されました。

後見人就任時の財産の調査及び裁判所への報告が済んだ後、

専門職後見人と他の相続人の方たちで、各遺産の分け方を話し合っていただきました。

なお、司法書士の資格で遺産分割協議自体に関与することは、法で定められた業務範囲の関係上できません。

ただ、専門職後見人との最初の打ち合わせの席には同席させていただき、これまでの経緯とこれからの展望の説明をお手伝いさせていただきました。

また、専門的な領域であるため、登記面においては、専門職後見人の方と直接やり取りをし、手続きがスムーズに進むようしました。

 

話し合いを重ねた結果、目的の不動産が依頼人の相続人の方の所有となることが決まったため、

その遺産分割協議書を使って相続登記をし、その不動産の名義は依頼人の方のものとなりました。

以上でご依頼が全て完了しましたので、依頼者の方へ手続きが全て完了した旨を報告し終了です。

 

 

後日譚

なお、申立て時に候補者となったご家族の方は、専門職後見人が所定の役割を終えた後、

無事に後見人に選任されたとのことです。(専門職後見人は辞任)

 

 

こんな人はご相談ください

・相続人の中に高齢の認知症の方がいて、遺産分割協議ができない

・親族に高齢の認知症の方がいて、一人でお金の管理ができないが、自分も含め面倒を見れる人がいない

・高齢の親族の成年後見人に自分がなりたいが、手続きがよくわからない

という方、成年後見に関する相談・手続きは木戸司法書士・行政書士事務所にお任せください!

 

執筆者  司法書士・行政書士 木戸 英治