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2020年03月30日お役立ち情報

相続した建物が未登記の場合にも相続登記はすべきなのか

相続登記のご依頼をいただくと、建物が長年未登記のまま、ということがたまにあります。

この場合、相続登記の手続きはどのように進めていけば良いでしょうか。

 

表示登記は義務

登記記録(登記簿)は、表題部と権利部で構成されています。

表題部とは、不動産の面積や不動産の種類(宅地、山林)といった物理的な情報が表示されています。

権利部は、所有権や抵当権といった権利に関する情報が表示されています。

建物表題登記をして登記記録そのものが作成されないと権利の登記もできません。

まず建物表題登記をし、その後、所有権保存の権利の登記をすることになります。

 

実は、新築建物を取得した者は、その建物の登記記録を作成するための建物表題登記を申請する義務があります。(不動産登記法第47条第1項)

申請の期限はその建物を取得した日から1か月以内で、その期限内に申請しないと10万円以下の過料に処せられると法律上定められています。(不動産登記法第164条)

過料とは、刑事罰ではありませんが、秩序罰や執行罰などと説明しても分かりづらいので、

私がお客様に説明するときは「罰金のようなもの」とお伝えしています。

ただ、聞くところにより、この過料が実際に課せられたことは今までに無いようです。

 

余談ですが、不動産登記の専門家の間では、

表題部に関する登記のことを表示の登記、権利部に関する登記のことを権利の登記と呼んでおり、

表示登記の専門家は土地家屋調査士で、権利の登記の専門家は我々司法書士です。

なお、権利の登記を申請するか(自分の権利を登記で保全したいか)は、

申請人の自由なので、登記の申請義務は課せられていません

 

 

中古建物は新築より手続きが大変

知り合いの土地家屋調査士の方によると、同じ建物表題登記でも、新築の建物と年数が経た中古建物なら、

中古建物の方が手続きの手間が掛かるため、依頼料も高くなるそうです。

中古建物の場合は、建築確認済証などの必要書類が紛失していることがあり、その代替となる書類の用意が必要となるためです。

 

 

結論

建物表題登記は法律上の義務です。

時が経てば経つほど、建物が建てられた当時のことを知る人が少なくなり、建物表題登記の手続きは大変になります。

後の世代に負担を残さないよう、できるだけ建物表題登記も合わせてした方が良いでしょう。

しかし、過去の依頼のケースを振り返ってみると、

相続登記を済ませた後に不動産の売却や担保設定が予定されていないと、

建物は未登記のままにしておかれる方が多いようです。

過料の強制力が実質機能していない以上、それは致し方ないことかもしれません。

 

 

未登記のままにするなら

建物が未登記のままでも、固定資産税は課税されます。

本来、毎年4~5月頃に、役所から所有者宛に固定資産税の納付通知書が送られてくるのですが、

何も然るべき手続きや連絡をしないでおくと、亡くなった所有者の住所にそのまま送られるおそれがあります。

納付通知書に気づかずそのまま未払のまま放置していると、滞納扱いにされかねません。

そこで、不動産の所在地を管轄している市町村の税務担当部署には、「未登記建物の所有者変更の届出」または「相続人代表者指定の届出」をしましょう。(届出の名称は、各所で違うかもしれません)

届出書の書式は、役所に行って受け取るか、公式ホームページでダウンロードすれば、手に入ると思います。

他の提出書類としては、相続関係を証明する戸籍謄本くらいなので、手続自体はそれほど難しくないと思いますが、ご自身で手続きをされる場合は、念の為、詳細については該当の役所の担当部署にご確認ください。

 

 

土地家屋調査士のご紹介

本来、未登記建物の建物表題登記の手続きについては、土地家屋調査士に依頼または相談されるべきです。

しかしながら、土地家屋調査士は司法書士以上に玄人向けな士業で、一般的にはあまり馴染みがないためか、相続手続きの最初の相談が土地家屋調査士に持ち込まれることはあまり無いようです。(あくまで私の知る限りは

しかし、開業直後の方などの例外を除けば、ほとんどの司法書士が土地家屋調査士と業務提携しているはずです。

これは私見ですが、似た分野の専門家でありながら、司法書士と土地家屋調査士は業務範囲の侵犯問題(いわゆる業際)が無く、「仲の良い」士業同士です。

弊所にも、これまで何度か表示登記を担当していただいた提携の土地家屋調査士の方がいらっしゃいますので、

依頼者の方が建物表題登記も含めた手続きを希望されるときは、土地家屋調査士の方の紹介が可能です。

また、私は行政書士登録もしていますので、建物表題登記をしない方針の場合には、未登記建物の所有者変更の届出または相続人代表者指定の届出も合わせてご依頼いただくことができます。

建物の表示登記をするにせよ、しないにせよ、相続登記に関することなら、まずは、お近くの司法書士にご相談いただくのが、相談者の方の負担が比較的少なく済むのではないかと思います。

 

 

余談

聞くところによると、千葉県の某夢の国にあるアトラクションの建物たちは建物表題登記はしているけど、所有権保存登記はしていないそうです。

通常は、

①建物表題登記 建物の登記簿が作られる

②所有権保存登記 最初の所有権の登記

の順番で手続きをするのですが、所有権保存登記をする際には登録免許税という税金を納める必要あります。

一方、建物表題登記だけなら登録免許税はかかりません。

建物表題登記はきっちりやって、法律上の義務はクリアしつつ、経費は抑えるという一つのテクニックでしょうか。

 

執行者

司法書士・行政書士 木戸 英治