2020年07月27日お役立ち情報
銀行の預貯金の相続手続きの流れと必要な書類について
はじめに
今回お話するのは、銀行や信用金庫など金融機関の預貯金の相続手続きについてです。
・手続きの流れは?
・用意すべき必要書類は?
についてお話します。
なお、遺言書が無く、口座の名義変更ではなく、口座を解約して預貯金全額を払戻して、相続人間で分配する場合を想定しています。
基本的な流れは
① 口座の特定
通常の場合
まずは、相続手続きの対象となる口座を特定します。
どの口座の預金を解約払戻し(または名義変更)するのか分からないと手続きできません。
金融機関名・口座種別(普通・定期など)・口座番号・口座名義人の情報が必要です。
通帳やキャッシュカードがあれば簡単に特定できます。
資料が無い場合
もし、それらの資料が無い場合は、口座がありそうな金融機関に照会を掛ける必要があります。
その際、照会する人が口座名義人の相続人であることがわかる戸籍謄本等の証明書の提示が必要になります。
証明すべき事柄は、
・相続が発生したこと=口座名義人が亡くなったこと
・照会者が口座名義人の相続人であること
照会者が名義人の配偶者なら、最新の戸籍謄本に2人の記載があるはずなので、その1通で済みます。
照会者が名義人の子供なら、名義人の最新の戸籍謄本と照会者の最新の戸籍の謄本(抄本可)が必要です。
ただ、後のことも考えるなら、あらかじめ必要な戸籍を全て集めて、法務局発行の法定相続情報一覧図を取得した方が便利かもしれません。
参考記事
調査すべき金融機関の絞り込みや調査時の注意点については、こちらの記事の調査先①②③の項目を参考にしてください。
② 預貯金残高の調査
通常の場合
遺産分割協議をするにあたり、口座にどれだけ遺産があるかを知っておく必要があるでしょう。
通帳が手元にあるなら記帳するのが一番楽な方法です。
通帳が無い場合
無い場合は、数百円程度の手数料は掛かりますが、取引履歴を取り寄せたり、残高証明書を請求してください。
その際、①と同様に、請求する人が口座名義人の相続人であることがわかる戸籍謄本等の証明書の提示が必要になります。
また、手数料の金額は、各金融機関で異なりますので、詳しくは該当の金融機関にご確認ください。
注意点
最終的には解約日までの利息がプラスされますので、事前に確認した残高が確定額ではないことに注意してください。
③ 戸籍の収集
亡くなった方名義の預貯金全額を解約払戻しするには、法定相続人全員の協力が必要です。
そして、手続き先の金融機関に対して、手続きに協力している人たちが法定相続人全員であることを証明するための戸籍の提出が必要です。
詳しくは、下の「用意すべき必要書類は」を参照してください。
なお、1・2・3は並行して進めることも可能なのです。
④ 遺産分割協議
原則
遺産分割の方法を法定相続人全員の話し合いで決めます。
そして、その決まった内容を書面(遺産分割協議書)にして、全員がその書面に署名し、実印で押印します。
遺産分割の方法は、当事者間の任意で決定できますので、全員が納得するのなら分け方は自由です。
割合で分けても、金額で分けても、指定の口座を指定の相続人が相続しても、一人が全てを相続する内容でも結構です。
もし、各人の要望がぶつかり、話し合いがまとまらない場合は、「法定相続分で分割」で早期決着を図るのも一つの手ではあります。
遺産分割方法の例
「預貯金債権について、相続人Xは2分の1、相続人Yは4分の1、相続人Zは4分の1を取得する。」
「預貯金債権について、相続人Xは1000万円、相続人Yは500万円、相続人Zは500万円を取得する。」
「預貯金債権について、相続人XはA銀行の普通預金口座(口座番号)、相続人YはB銀行の普通預金口座(口座番号)、相続人ZをC銀行の普通預金口座(口座番号)を取得する。」
「相続人Xは全ての預貯金債権を取得する。」
法定相続分の計算
配偶者がいる場合は、その配偶者は必ず法定相続人となり、その法定相続分は、他の相続人の続柄により異なります。配偶者がいない場合は、同順位の相続人で等分(頭割り)します。
・法定相続人が配偶者と子供の場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分は全員で2分の1。子の各人の法定相続分は2分の1を等分する。
・法定相続人が配偶者と親の場合、配偶者の法定相続分は3分の2、親の法定相続分は全員で3分の1。親の各人の法定相続分は3分の1を等分する。
・法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者の法定相続分は4分の3、兄弟姉妹の法定相続分は全員で4分の1。兄弟姉妹の各人の法定相続分は4分の1を等分する。
注意点
・遺産分割協議は、必ず法定相続人全員でしてください。法定相続人が欠けた遺産分割協議は無効です。
・法定相続人の中に重度の認知症などで判断能力が著しく衰えた方がいる場合は、成年後見人を選任する必要があるかもしれません。
⑤ 提出書類の作成、準備
ここまでに準備した相続口座の調査・相続関係の調査・遺産分割協議の内容を基に、金融機関に提出する書類の作成または準備をします。
詳しくは、下記の「用意すべき必要書類は」を参照してください。
⑥ 払戻し手続き
必要書類が全て揃ったら、手続きしたい金融機関に書類一式を提出します。
提出方法
概ね、支店の窓口に提出するか、支店または専用部署(センター)に郵送するかの2つです。
窓口で手続きする場合、通帳に記載されている取扱店でなくても手続きできる金融機関の方が多いです。
特に、いわゆるメガバンクと呼ばれている全国的な金融機関の場合は、最寄りの支店でも問題ないようです。
信用金庫などは取扱店限定の場合がありますが、もし、その支店が遠方の場合は、郵送で手続きが可能か確認してみましょう。
ただ、金融機関によっては、センターへの郵送しか受付していないところもあるなど、各金融機関で対応が異なりますので、詳しくは該当の金融機関にご確認ください。
所要日数
私のこれまでの経験上、書類が受付されてから一週間以内には、払戻しがされていました。
金融機関によっては、午前中に書類を受付し、全て揃っていることが確認できれば、その日の午後には払戻しまで完了することもあります。
もちろん、受付時に必要書類が不足している場合は、この限りではありません。
こちらも各金融機関で所要日数は異なりますので、詳しくは該当の金融機関にご確認ください。
受取方法
④遺産分割協議で決まった内容によりますが、概ね2つの方法があります。
1.遺産分割協議で決まった内容が、割合や金額で各相続人に分配する場合は、一時預かりとして、代表相続人の口座に振り込んでもらい、全ての払戻しが完了したら、各人に分配する。
2.遺産分割協議で決まった内容が、指定の口座ごとに指定の相続人に取得させる(A銀行の普通預金は相続人Xが相続する、B銀行の普通預金は相続人Yが取得する)場合は、各人の口座に振り込んでもらう。なお、このやり方の場合は、⑦遺産分配の工程は不要です。
注意点
戸籍類や印鑑証明書は、必ず原本を返還してもらいましょう。
他にも手続書類を出す先があるなら、費用の負担・手続きの負担を減らすために使いまわしたいところですし、
後日、相続手続時のことを証明するために書類の提示や提出が必要になることがあるかもしれません。
私のこれまでの経験上、返還に応じてくれなかった金融機関はありませんでした。
⑦ 遺産分配
全ての預貯金が払い戻されたら、④の遺産分割協議で決まった内容で遺産を分配します。
分配の方法は、私は銀行振り込みが良いと考えます。
代表者の口座から分配額を引き出して、各人に現金手渡しする方法も可能ですし、振込手数料は浮きますが、
浮く額は数百円×人数分程度ですし、「ちゃんと遺産分割協議どおりに何月何日に遺産を分配した」という記録が残る方法が、後日のトラブルを防止できるからです。
※例外:相続預金の一部払戻し制度
制度の概要
改正法施行により、2019年7月から、遺産分割が終了する前でも、当面の生活費や葬儀費用の支払いなどにお金が必要になった場合に、各相続人が一部の金額に限って相続預金の払戻しが受けられる制度が設けられました。
払戻しを受けられる金額
◯家庭裁判所の審判を受けずに払い戻す場合
「相続開始時のその口座の預金額の3分の1 × 払戻しを希望する相続人の法定相続分、ただし、一つの金融機関あたりの払戻し上限額は150万円」
◯家庭裁判所の審判を受けた場合
「家庭裁判所が認めた金額」
となっています。
モデルケース
◯ケース1
・家庭裁判所の審判を受けずに払い戻す
・A銀行にある相続預金の相続開始時の残高が1500万円
・払戻しを希望する相続人の法定相続分が4分の1
→1500万円 ×1/3 ×1/4 =125万円まで
◯ケース2
・家庭裁判所の審判を受けずに払い戻す
・A銀行にある相続預金の相続開始時の残高が3000万円
・払戻しを希望する相続人の法定相続分が4分の1
→3000万円 ×1/3 ×1/4 =250万円、ただし上限規制があるので払戻し額は150万円まで
用意すべき必要書類は
① 被相続人の生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍謄本
口座名義人(被相続人)が亡くなったことの証明と、その法定相続人を確定させるのに必要です。
戸籍は本籍地の役所で取得できます。
郵送でも請求できますので、該当の役所が遠方の場合は郵送で請求した方が良いでしょう。
請求の際は「生まれてから亡くなるまでの戸籍がほしい」と伝えましょう。
法改正による戸籍の改製や結婚・転籍などがあるたびに新しい戸籍が作られるため、通常、被相続人の戸籍1通だけで「生まれてから亡くなるまで」の期間をカバーできません。
亡くなった時からスタートして、時代を遡って(生まれたときに向かって)戸籍を集めていくのが良いでしょう。
なお、既に発生済みの、時間の経過で変わりようのない事実を証明する書類なので、本来、この被相続人の戸籍には有効期限など無いはずなのですが、稀に、6か月以内発行のものを求めてくる、相続のことを良く分かっていない金融機関担当者がいますので、注意が必要です。
② 相続人全員分の戸籍謄本または抄本
口座名義人(被相続人)が亡くなったときに存命であったことと、その法定相続人であることの証明に必要です。
法務局に提出する相続登記と違い、手続きする日から6か月以内に発行されたものの提示を求められることが多いので、注意しましょう。
相続人の戸籍は、その人だけの記載がある(配偶者や子供の記載がない)抄本でも問題ないですが、区別がややこしければ、全て謄本で取得しても大丈夫です。
☆ 法定相続情報一覧図
①②の代わりの書類として提出できる、法務局発行の証明書です。
①②や相続関係図などの書類を法務局に提出すると、法務局がその戸籍を調査し、提出した相続関係図どおりの相続関係に間違いなければ、法定相続情報一覧図(相続関係図に相続関係に間違いない旨の証明印が押されたもの)という証明書として発行してくれます。
手続きに必要な分だけ証明書を発行してもらいましょう。発行手数料は無料です。
私が依頼を受けて相続手続をする場合は、この証明書を提出することが多いです。
理由は、金融機関側で戸籍(相続関係)の確認に要する時間が大幅に短縮されて、払戻手続に掛かる時間が減って楽になるからです。
③ 相続人全員分の印鑑証明書と実印
法定相続人が⑤手続き用紙(⑥または遺産分割協議書)に実印を押印することで、相続手続きに同意したという意思表示を確認するために必要です。
印鑑証明書は住所地の役所で取得できます。
②同様、相続登記と違い、手続きする日から6か月以内発行のものを求められることが多いです。
まれに、3か月以内発行のものを求める金融機関もありますので、あらかじめ金融機関に有効期限も確認した方が良いでしょう。
④ 手続きする人の本人確認書類
運転免許証やマイナンバーカードなどの公的な証明書が該当します。
窓口や郵送で手続きする人(代表相続人)の証明書を提示または提出する必要があります。
窓口で手続きする場合は、原本を提示して、金融機関がそのコピーを保管。
郵送で手続きする場合は、証明書のコピーを提出します。
運転免許証等の写真付きのものがベターですが、写真付きの証明書をお持ちでない場合は、健康保険証等の写真付きでない証明書を二点用意します。
金融機関によっては、写真付きでない証明書一点と、③印鑑証明書で大丈夫なこともあります。
なお、パスポートについては、2020年2月以降発行分から住所の記入欄が無くなったため、住所の記入欄がないパスポートについては、相続手続き時の本人確認書類として使用できない場合がありますので、ご注意ください。
⑤ 金融機関所定の手続き用紙
名称は「手続依頼書」など様々ですが、必ず各金融機関ごとに手続き用紙が用意されており、その用紙に必要事項を記入押印する必要があります。
記入すべき内容自体はさほど難しくないはずです。
遺産分割協議書も他の相続人からの委任状も使わない場合は、この書類に法定相続人の全員の実印を押印します。
なお、入手する方法は次の3つがあります。
・最寄りの支店まで取りに行く
・用紙を郵送で取り寄せる
・相続手続き用のWEBサイトからダウンロードして印刷する(例:ゆうちょ銀行)
⑥ 遺産分割協議書
相続手続きに必須というわけではありません。
しかし、遺産分割協議の内容が、指定の口座の預貯金の全てを指定の相続人が取得することになっていると、その遺産分割協議書の提示も必要となる場合があります。
遺産分割協議書には、法定相続人が署名と実印で押印します。
⑦ 委任状
相続手続きに必須というわけではありません。
しかし、他の法定相続人全員から、手続きを代表相続人に委任する旨の委任状をいただくと、⑤手続き用紙への他の法定相続人の署名押印を省略できる場合があります。
委任状には、⑥遺産分割協議書同様に、法定相続人が署名と実印で押印します。
なお、代表相続人がゆうちょ銀行に解約払戻し手続きをする場合には、他の法定相続人全員から、手続きを代表相続人に委任する旨の委任状をいただく必要があります。
そして、その委任状はゆうちょ銀行の所定の書式のものの提出を求められます。書式は⑤手続き用紙同様に、WEBサイトからダウンロードできます。
注意点
繰り返しになりますが、⑤手続き用紙以外の書類の原本は必ず返還してもらいましょう。
まとめ
「銀行の預貯金の相続手続きの流れと必要な書類について」いかがでしたか?
手続きをやり慣れている専門家の立場から見ればですが、預貯金の相続手続きは時間と手間さえ掛ければ、決して難しい手続きではありませんので、一般の方だけでも手続きは可能だと考えます。
ただ、健康上の問題で役所や銀行に何度も足を運ぶのが大変な方もいらっしゃると思いますし、遺産分割協議書などの書類が作成が苦手な方もいらっしゃることでしょう。
そういうときは、身近な専門家(司法書士や弁護士など)を活用することをお勧めします。
また、弊所では、「戸籍の収集だけ」「遺産分割協議書の作成だけ」というご依頼にも対応していますので、銀行の相続手続きでお困りのことがあれば、お気軽にご相談いただければと思います。
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執筆者
司法書士・行政書士 木戸 英治