2021年03月01日お役立ち情報
【解決事例】長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい その2-不在者財産管理人編
※本記事は、実際の事件の内容を一部変更したり、複数の事件を再構成しています。
前回のおさらい
おはようございます、司法書士の木戸です。
まずは前回のざっくりしたおさらいです。
・長らく相続登記をしていなかった不動産を処分するため、法的な手続きをすることになった
・韓国の戸籍謄本が全く取れないけど、遺産分割調停が成立すれば何とかなりそうだ
・法定相続人の1人が行方不明なので、裁判所に法的な代理人(不在者財産管理人)を付けてもらおう
不在者財産管理人を選任してもらおう
なぜ不在者財産管理人が必要なのか
前回の記事の最後で、相続登記をするために遺産分割調停の成立を目指すことになりましたが、調停は話し合いの場なので、法定相続人全員に話し合いに参加してもらう必要があります。
しかし、法定相続人の一人が行方不明(所在不明で連絡が付かない状態)では、調停に参加してもらうことが期待できません。
しかし、そんな困ったことにならないよう、遺産の分け方を決めるための話し合いに行方不明の人に代わって参加する人=法的な代理人を裁判所に選んでもらうことができる制度があります。
その代理人が不在者財産管理人です。
裁判所に選ばれる法的な代理人という意味では、成年後見人と似てると言えます。
なお、不在者財産管理人を裁判所に選任してもらうための手続き自体のより詳しい説明は、記事の後ろの項目をご覧ください。
選任の申立てで私がやったこと
不在者財産管理人を裁判所に選任してもらうためには、家事審判申立書などの書類を裁判所に提出する必要があります。
司法書士は、裁判所に提出する書類の作成を代理することができます。
今回、私がしたことは次のことです。
・審判申立書や財産目録の作成
・相続関係の証明書の収集(既に完了)
・不在(行方不明)であることがわかる書類の作成や準備
・その他の提出書類(住民票や相続不動産の登記事項証明書)の収集
・申立書類の提出代行
【補足説明】相続関係の証明書
相続関係の証明書とは、通常であれば戸籍謄本や家族関係証明書になりますが、今回は前回の記事の事情により、それは叶いません。
要は、それらの書類に代わって、相続関係がわかる資料を提出すれば良いのです。
・両親と依頼者姉妹の外国人登録原票の写し
→亡くなった両親が婚姻関係である事実、両親と依頼者たちが親子関係である事実
・依頼者姉妹と兄の出生届の記載事項証明書
→依頼者たちが亡くなった両親の子供であるという事実
・両親の死亡届の記載事項証明書
→両親が亡くなった事実とその時期
合わせて、なぜ戸籍謄本や家族関係証明書を提出できないのかという事情を裁判所に説明する上申書も作成しました。
【補足説明】不在であることがわかる書類
兄の住民票上の住所宛に本人限定受取郵便で、連絡が欲しい旨の手紙を送りました。
そして、受け取りがされないまま保管期間を経過し、「不在のため配達できないまま保管期間が経過した」旨の表示がされた封筒が差出人の私の手元に戻ってきたので、その封筒のコピーを提出しました。
また、複数の親族に行方を訪ねたが、誰もその行方を知らなかった旨の報告書も提出しました。
そして不在者財産管理人が選任された
申立て→選任の審判
申立てに必要な書類が揃ったので管轄の家庭裁判所に申立てを行いました。
必要な書類が全て揃っていたため、特に補正や追完も無く、申立てが受付されてから、約3ヶ月後、管轄裁判所がある地域の弁護士の方が財産管理人に選任されました。
そして、財産管理人と申立人(依頼者)との間で、今回の申立ての目的である遺産分割協議をしていくため、打ち合わせの場が設けられることになりました。
財産管理人との打ち合わせ
その打ち合わせには私も同行しました。
今回、想定される登記関係の手続きは中々に専門的な知見が必要であり、その説明のために同行すべきだと判断したからです。
依頼者の方もこんな体験は初めてされるわけなので不安に思われていたのでしょう、私が同行を申し出ると喜ばれ、むしろ同行してほしいとのことでした。
打ち合わせは、財産管理人の方の事務所で行われました。
最初、財産管理人から申立人に対して、財産管理人として行っていく職務について説明がされ、その後、申立ての詳細な部分や不在者(兄)に関しての質問がなされました。
そして、今後の方向性に関する話題になったとき、私から財産管理人に対して、登記の技術的な問題(戸籍謄本が入手できない)をクリアするため、遺産分割調停を経て相続登記を行いたい旨を説明しました。
財産管理人の方も諸般の事情を検討した結果、こちらの方針にご納得いただけ、就任後の一定の調査を経て態勢が整い次第、遺産分割調停を申し立てることになりました。
不在者財産管理人選任申立て手続きについて
制度の概要
元々いた住所や生活の拠点から居なくなり、すぐには戻ることができない者または戻る見込みの無い者(不在者)が財産管理人を置いていない場合、家庭裁判所は、利害関係者らが申立てをすることにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係がある者の利益を守るために、財産管理人の選任等の処分を行うことができます。
つまり、家庭裁判所は利害関係者らの申立てもなく、勝手に財産管理人を選ぶことはできません。
不在者財産管理人の職務と権限
不在者財産管理人の基本的な仕事は、不在者の財産を管理し、その価値を保つことです。
今回の事例のような遺産分割、不動産をはじめとした財産の売却(財産を処分する行為)については、家庭裁判所から権限外行為の許可を得た場合に限り、不在者に代わって行う(代理する)ことができます。
なお、不在者財産管理人には不在者との利害関係が無い者が選任されます。
地域によりますが、都市部では、裁判所の候補者名簿に登録されているその地域の弁護士が選任される傾向にあるようです。
今回の事例の管轄裁判所では、原則、名簿に記載されている弁護士の方を選任する運用をしているとのことでした。
弁護士の数が少ない地方部では、司法書士も選任されることがあるようです。
申立人になれる人
選任を申立てすることができるのは、次の人に限られています。
・利害関係人
例)不在者の配偶者
不在者と共同相続関係にある者
債権者(お金を貸している等)、担保権者
・検察官
今回の事例の申立人は、「両親に関する共同相続関係にある者」という資格になります。
不在者財産管理人になれる人
不在者財産管理人には、特に必要な資格はありません。
今回の事例では弁護士の方が選任されましたが、法律専門職に限られるわけではありません。
不在者と利害関係が無く、裁判所が財産管理人としての職務を果たせる適格性があると判断された者が選任されます。
申立人が自分の知っている親族を候補者として推薦し、その方がそのまま選任される場合もあります。
ただし、候補者をそのまま選任するかどうかは裁判所の判断次第となります。
地域によりますが、都市部では、裁判所の候補者名簿に登録されているその地域の弁護士に限って選任される傾向にあるようです。
今回の事例の管轄裁判所では、原則、名簿に記載されている弁護士の方を選任する運用をしているとのことでした。
弁護士の数が少ない地方部では、司法書士も選任されることがあるようです。
管轄裁判所(申立先)
・不在者のこれまでの住所地または居所を管轄する家庭裁判所
不在者のこれまでの住所地が大阪市の場合は大阪家庭裁判所、
堺市の場合は大阪家庭裁判所堺支部が管轄になります。
必ずしも、最後の住所地が管轄とは限りません。
その他、管轄の裁判所をお調べになりたい方はこちらを参照してください。
申立ての費用
収入印紙と切手は、申立ての際にあらかじめ物納する必要があります。
・収入印紙
800円分
申立ての手数料です。
郵便局で購入してください。「800円印紙」は発行されていないので、「400円印紙」2枚で大丈夫です。
・郵便切手
大阪家庭裁判所の場合 2400円分(内訳 100円 5枚、84円 20枚、10円 20枚、2円 10枚)
申立てに関する連絡用の郵便切手です。
納めるべき郵券の数は管轄の裁判所ごとに異なるため、申立て前に必ず管轄の裁判所にください。
参考ページ 家事事件申立手数料及び予納郵便切手一覧表(大阪家庭裁判所)
・予納金
不在者財産管理人の職務に必要な費用(財産管理人の報酬含む)を、財産管理人を選任する前に予め裁判所に納付するよう申立人に指示される場合があります。
財産管理人の職務に関する報酬や実費は、不在者の財産から賄われるべきですが、今回は相続不動産のみを財産として申し立てるため(最終的に売却して換金できるか未定)、予め納める必要がありました。
相場は概ね30~100万円程度で、今回の事例では50万円でした。
必要書類
・家事審判申立書
・財産目録(土地、建物、現金・預貯金・株式等)
・不在者の戸籍謄本
・不在者の住民票または戸籍の附票
・財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票(申立人が候補者を挙げる場合のみ)
・不在の事実に関する資料
・不在者の不在者の財産に関する資料
不動産・・・登記事項証明書、固定資産評価証明書など
預貯金・・・通帳のコピー、残高証明書など
株式・有価証券・・・残高証明書、取引残高報告書など
・利害関係があることがわかる資料(利害関係人から申立ての場合)
今回の事例のように遺産分割が目的なら、「両親の相続が発生していること」「その相続関係が分かるもの」書類=両親やその法定相続人の戸籍謄本等がそれにあたります。
手続きの流れ
① 申立書と添付書類を管轄の家庭裁判所に提出する。
② 家庭裁判所にて、提出された書類から選任の必要性があるかを検討する。
③ 家庭裁判所にて、不在の事実を調査(検察庁や警察に前科・犯歴の照会、入国管理局に出入国記録の照会等)する。
④ 家庭裁判所にて、これまでの調査を基に審理する。
⑤ 不在者財産管理人選任の審判がされる。
途中書類の追完などが無くても、①から⑤までに、最低でも2ヶ月程度は掛かります。
あとがき
「長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい その2-不在者財産管理人編」いかがでしたか?
書類の準備だけでいえば、既に前段階で相続関係がわかる書類を集めていたので、不在の事実に関する書類をどうするのか?だけが注意点でした。
他にも、警察の捜索願なども該当するのですが、今回の経緯上、捜索願は出していないため、本人限定受取郵便を送るという選択をしました。
それ以外の注意点としては、予納金の高さですね。
依頼者の方に手続きを説明をしていくうえで、金額の説明をすると驚かれる方もいらっしゃいます。
それでは、ここまで記事をお読みいただきありがとうございました。
その3-遺産分割調停編に続く・・・
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執筆者 司法書士・行政書士 木戸 英治