2021年07月01日お役立ち情報
【解決事例】長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい その3-遺産分割調停編
※本記事は、実際の事件の内容を一部変更したり、複数の事件を再構成しています。
前回のおさらい
おはようございます、司法書士の木戸です。
まずはこれまで【その1】【その2】のざっくりしたおさらいです。
・長らく相続登記をしていなかった不動産を処分するため、法的な手続きをすることになった
・行方不明の法定相続人のために、法的な代理人(不在者財産管理人)が付いた
・韓国の戸籍が無いので、遺産分割調停を経て相続登記をする必要がある
・態勢が整い次第、遺産分割調停を申し立てることになった
遺産分割調停の経緯
調停申立てへ
不在者財産管理人の就任後の調査が済んだので、遺産分割調停申立ての段階に進むことになりました。
司法書士は裁判所に提出する書類の作成ができます。
不在者財産管理人選任の時同様に、遺産分割調停申立ての書類作成も私が担当することになりました。
遺産分割調停申立ての手続き自体のより詳しい説明は、記事の後ろの項目をご覧ください。
不在者財産管理人選任の申立ての時と同じく、特に補正や追完も無く、申立てが受付されました。
予想外の展開、不在者の登場
申立ての受付から約1か月後の日に初回の調停期日が設定されました。
調停期日とは、遺産分割について話し合うため、調停の申立人やその相手方となる相続人等の関係者が、管轄の家庭裁判所に出頭するように指定された日時のことです。
今回は相続人の2名と不在者財産管理人の弁護士の3名がその出頭すべき関係者となります。
依頼者から希望があったので、私も期日に家庭裁判所まで同行する予定をしていたところ、
期日直前に不在者本人が見つかった旨の連絡が財産管理人からありました。
なお、書類作成を担当していても、司法書士は調停手続き自体の代理人ではありませんので、付いていけるのは裁判所内の待合室までです。
裁判官や調停員がいる調停室には本人と一緒に入ることはできません。
代理人弁護士であれば一緒に入れます。
弁護士にバトンタッチ、調停成立
不在者財産管理人と相続人は、事前に打ち合わせを重ねていたため、調停の早期成立を見込んでいたのですが、
不在者本人が登場したことで、これらは白紙となりました。
本人が現れた以上、存在意義が無くなった不在者財産管理人は職を退くこととなり、
その本人は、別の弁護士を代理人としてたて調停に参加し、争う姿勢を見せてきたため、調停は長期化の様相を見せてきました。
情勢が変化したため、依頼者の方たちにはこちらも弁護士をたてることを勧め、
後は弁護士にお任せして、私は調停の成り行きを見守ることしました。
そして、何度かの調停期日を経た後、調停が成立しました。
なお、大体1~2ヶ月に一回程度のペースで調停期日が設けられます。
遺産分割調停申立て手続きについて
手続きの概要
被相続人の遺産の分け方について、相続人同士で話合いがつかない場合は、家庭裁判所の調停手続の調停の手続を利用することができます。
裁判官と調停委員で構成する調停委員会が、各当事者の間に入って、事情を聴き取り、ときには提案や助言などをして、全員が納得できる解決を目指して話し合いを進めていきます。
遺産分割調停はあくまで話し合いで解決を図る制度であるため、話合いがまとまらず調停が成立しない場合は、裁判官が諸々の事情を考慮して遺産分割方法を強制的に決定する遺産分割審判手続に移行します。
申立人になれる人
遺産分割調停は、申立人となる相続人等(1人又は複数)が、他の相続人全員を相手として申し立てます。
申立てすることができるのは、次の条件に該当する人に限られています。
・共同相続人
・包括受遺者(遺言で遺贈を受けた者)
・相続分の譲受人(法定相続人から相続分を譲渡された者)
管轄裁判所(申立先)
・申立ての相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所(又は当事者が合意で定める家庭裁判所)
今回で例えれば、
長男の住所が大阪市、長女の住所が京都市、次女の住所が神戸市とすると、
長女が申立てをする場合は、申立先は、大阪家庭裁判所か神戸家庭裁判所どちらかに申し立てます。
実際は、不在者財産管理人選任のときと同じ裁判所(長男の住所地)に申立てをしました。
その他、管轄の裁判所をお調べになりたい方はこちらを参照してください。
申立ての費用
収入印紙と切手は、申立ての際にあらかじめ物納する必要があります。
・収入印紙
申立ての手数料です。郵便局で購入してください。
被相続人1人について、収入印紙1,200円分。
郵便切手と違い、組み合わせは指定されていないので、合計で1,200円分あれば大丈夫です。
・郵便切手
申立てに関する連絡用の郵便切手です。
納めるべき郵券の数は管轄の裁判所ごとに異なるため、必ず事前に管轄の裁判所に確認してください。
大阪家庭裁判所の場合はこの内訳です。
当事者が3名なら、総額6,000円必要です。
・500円× 2枚×当事者の数
・100円× 2枚×当事者の数
・ 84円× 5枚×当事者の数
・ 50円× 5枚×当事者の数
・ 10円×10枚×当事者の数
・ 5円× 5枚×当事者の数
・ 1円× 5枚×当事者の数
※当事者の合計が11名以上の場合,1名増えるごとに84円×5枚を追加
参考ページ 家事事件申立手数料及び予納郵便切手一覧表(大阪家庭裁判所)
必要書類
・家事審判申立書の原本1通と、申立ての相手方の人数分の写し
・被相続人の出生から死亡までの身分事項の記録がある戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の住民票(又は戸籍の附票)
・遺産に関する資料
不動産なら、登記事項証明書、固定資産評価証明書
預貯金なら、通帳の写し、残高証明書
株式なら,株券の写し、残高証明書
手続きの流れ
① 申立書と添付書類を管轄の家庭裁判所に提出する。
② 家庭裁判所が受け付けた提出書類を確認し、必要な場合は申立人に補正を指示する。
③ 家庭裁判所が、当事者と調整のうえ初回の調停期日を指定する。
④ 家庭裁判所にて調停期日が開かれ、当事者(とその代理人)が出席して、事実関係を確認したり、主張を述べたり、これらを整理したりする。
⑤ 次回の期日に向けての準備をする(追加の証拠の提出、相手方の主張への反論等)。
以下、④⑤を何度か繰り返す。
⑥ 調停成立 or 調停不成立、審判手続きに移行。
エピローグ
相続登記申請
紆余曲折ありながらも遺産分割調停が成立したので、交付された調停調書の内容で相続登記をします。
調停調書には、「遺産分割の方法」だけでなく「登記名義人の相続人の全員である」旨の記載がありますので、
この調停調書が戸籍等の相続関係証明書に代わる登記原因証明情報となります。
また、通常、被相続人の同一性を証する書面として、被相続人に関する住民票の除票や戸籍の附票(今回なら閉鎖された外国人登録原票の写し)の添付が必要ですが、調停調書に「相続不動産が被相続人の財産である」旨の記載もあるため、調停調書の添付だけで事足ります。
今回、提出した添付書類は次のものです。
【添付書類】
・遺産分割調停調書
・登記名義人になる相続人たの住民票
・その相続人から代理人司法書士への委任状
・不動産の評価証明書
そして不動産売却へ・・・
好条件を提示してくれた買主さんが早い段階で見つかっていたため、売買契約は調停成立後すぐに締結したそうです。調停に基づく相続登記をすることを条件として。
その不動産がある地域に強いネットワークを持つ仲介業者の方が私と知り合いだったので、大変助かりました。
相続登記の完了が確認できた後、少し日を置いて、手付金以外の売買代金の残金の支払いと引き渡しの場が設けられました。
売主・買主・仲介業者・司法書士等の関係者一同がその場に集まり、登記の必要書類が揃っていることができた後、残代金の決済と引き渡しを済ませ、取引は無事完了しました。
これで、当初設定したゴールである「相続不動産を売却して、滞納金を清算する」にたどり着くことができました。
あとがき
「長年相続登記していなかった親の不動産を売りたい その3-遺産分割調停編」いかがでしたか?
実は、長男の方は、ご両親が亡くなって間もない頃、相続登記をするため戸籍を集めようとしたのですが、私も直面した事情が判明し、断念されたそうです。
もし、その時誰か専門家に相談していただければ、もっと早くに解決できたのかもしれません。
こんな大掛かりなことにならずに済んだのかもしれません。
今は、難しくない手続きであれば、インターネットで検索して調べれば、自分でできる時代かもしれません。
しかし、今回のように複数の問題が絡んだケースですと、一人でやり切るのは中々難しいのではないでしょうか。
今回の件で、私は改めて難しい相続に悩んでいる方の力になりたいと強く感じました。
それでは、ここまで記事をお読みいただきありがとうございました。
執筆者 司法書士・行政書士 木戸 英治
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